死にかけた話U
当時(幼稚園の頃)そこらあたりに田んぼやキャベツ畑があって
稲刈りが終わった頃になると絶好の遊び場になった。
その日も近所の友達ヒデヒロ君と田んぼに入って遊んでいたが
もっと遠くの田んぼに行ってみようとそれまでいつも遊んでいた場所から
少し離れた場所に移動した。
しばらくそこで遊んでいると、目の前に4畳半くらいの大きさで
正方形のコンクリートのくぼみを見つけた。
何なのだろうとしばらく見ていたが、わからない。
面白そうな遊び場を発見したと思い、ひでひろ君に
「一二の三で飛び降りよう」と提案した。
ひでひろ君は、まだそのくぼみをじっと見つめている。
少し変に思ったがそのまま気にせず
いち・にの・さん!で飛び降りた。
瞬間、何が起こったのか分からなかった。
着地したはずのコンクリートの底を私の足は突き抜けていた。
どろどろした液体の中に鼻の上までうずまり
息ができなく
パニックに陥った。
かすかに見えたのは、上から私を見下ろしているひでひろ君だった。
助けて、と目で訴えたが彼はそのまま猛スピードで走り去ってしまった。
抜き差しならぬ状況に陥ってしまった。
息ができない。何回もジャンプして鼻がその液体から出た時
一瞬息を吸うだけで、それさえも次第に出来なくなってきた。
ここでタイトルに戻りますが、アポタコとは何か知っていますか?
(アポ)とは博多弁でいう大便の事。
大阪では(ババ)と呼ばれています。
それを入れるものが(タコ)。・・・もう、お分かりでしょう。
アポタコとは肥溜めの事なのです。
その中に殺菌作用や
消臭作用のある薬品を入れると表面が灰色になり
それがコンクリートに見えたわけです。
飛び込む直前までそれを友達がじっと見ていたのは
おそらくその事に気付いていたからなのでしょう。
それが証拠に彼は飛び込みませんでした。
話は戻って、切羽詰った状況になり諦めかけたその時
足に何かがぶつかった。そこに足をかけると一段だけ上にあがる事が出来た。
それを足場にして残る力を振り絞ってやっとアポタコの中から這い上がる事に成功した。
私は勝ったのだ

自らの力で明日を、未来を勝ちとったのだ。

当時
映画{
ロッキー}が上映されていれば、きっと空よりも高く両手を掲げた事だろう。
ウンコまみれで・・・

ほっとしたら急に恐怖がこみ上げてきて泣きまくった。
私の泣き声が聞こえたのか、近くにあった工場のおばさんが私を見つけてくれて
従業員専用の
お風呂に連れて行ってくれてお湯を何杯もかけてくれた。
温かかった。本当に温かかった。よく心が温かくなると言われるが本当である。
そこに、ひでひろ君が私の母を連れて戻ってきた。
『逃げたんじゃなかったんだ。母を呼びに走ってくれたんだ。』
走れメロスではないが、一瞬でも疑った自分が恥ずかしい。
でもあの段差がなかったら間違いなく死んでいた。
母はその時私が着ていた服がもったいないからと捨てずに
たんすの私用の
引き出しにずっととっておいた。
半年一年経っても匂いは消える事がなかった。
『やっぱり匂いは取れんね−』と呟いていたが
私はその匂いをかぐたびにいや〜な思いがしたものだった。
とにもかくにも、肥溜めの中で死ななくて良かった。・・本当に、良かった・・・。